2026年10月1日施行|カスタマーハラスメント対策が全事業主の義務になります

2026年10月1日から、カスタマーハラスメント(以下「カスハラ」)と、採用活動中の求職者等に対するセクシュアルハラスメントについて、事業主に防止措置が義務付けられます。

対象は大企業に限られません。業種や従業員数にかかわらず、すべての事業主が準備する必要があります。特に、店舗、医療・介護、福祉、運輸、宿泊、飲食、コールセンターなど、顧客や利用者と接する機会の多い職場では、現場任せにしない対応ルールが重要です。

厚生労働省は2026年7月23日に改正法の特設ページを公開し、同年9月14日には「カスハラへの対応ルールのポイント」を追加しました。施行直前の今、社内方針、相談窓口、初期対応、被害を受けた労働者への支援が実際に機能するかを確認しておきましょう。

概要:2026年10月1日から何が変わるのか

改正法は2025年6月11日に公布され、2026年10月1日に施行されます。厚生労働省は2026年2月26日に、カスハラ防止指針と求職者等セクハラ防止指針を告示し、事業主が講ずべき措置を具体化しました。

カスハラは、単に「顧客から苦情があった」という意味ではありません。指針では、次の3要素をすべて満たすものと整理されています。

  • 顧客、取引先、施設利用者やその家族など、事業に関係する者の言動である
  • 業務の性質などに照らし、社会通念上許容される範囲を超えている
  • その言動によって労働者の就業環境が害される

正当な申入れや改善を求める意見まで一律にカスハラとして扱うものではありません。要求の内容、言動の態様、頻度、継続性、発生までの経緯などを踏まえた判断が必要です。

対象となる「職場」は店舗や事務所だけではなく、取引先、訪問先、顧客宅など、労働者が業務を行う場所を含みます。電話、電子メール、SNSやオンライン上の言動も対象になり得ます。また、正社員だけでなく、パート・有期契約社員など雇用するすべての労働者が保護の対象です。派遣労働者については、派遣先にも必要な対応が求められます。

同じ2026年10月1日から、採用面接、会社説明会、インターンシップ、OB・OG訪問などにおける求職者等へのセクシュアルハラスメント対策も義務になります。採用担当者だけでなく、面接官、現場社員、役員など、応募者と接点を持つ人を含めた体制整備が必要です。

事業者への影響

企業規模を問わず準備が必要です

今回の防止措置には、小規模事業者への適用猶予は示されていません。従業員50人未満で産業医の選任義務がない事業場も対象です。

既存のパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントの相談窓口がある場合は、カスハラや求職者等セクハラも扱うことを明記し、一体的に運用する方法があります。ただし、窓口の名称だけを変更するのではなく、相談を受けた後の連絡先、判断者、記録、被害者への配慮まで決めておく必要があります。

「お客様対応」と「労働者保護」の両立が必要です

カスハラ対策は、正当な苦情を拒むための制度ではありません。一方で、暴行、脅迫、侮辱、土下座の強要、長時間の拘束、執拗な連絡などを、従業員の接遇努力だけで受け止め続けることも適切ではありません。

事業者には、何をカスハラとして扱うかを整理し、現場が一人で判断を抱え込まない仕組みをつくることが求められます。業種、取引形態、顧客との関係によって想定場面は異なるため、自社の実態に合わせたルールが必要です。

健康管理の課題としても捉える必要があります

強い威圧や長時間の拘束を受けた労働者には、不眠、不安、意欲低下などの心身の変化が生じることがあります。事実確認や顧客対応だけで終わらせず、本人の希望と状態を確認し、必要に応じて管理監督者、産業医・保健師等の産業保健スタッフ、外部相談窓口につなぐ体制が大切です。

ただし、個別の医学的判断は医療職が行うものであり、人事担当者だけで就業可否や治療の必要性を判断しないようにします。

今すべき対応:施行前の7項目

1.経営者の方針を明文化する

カスハラに対して組織として対応し、労働者を保護する方針を明確にします。同時に、正当な申入れには誠実に対応することも示すと、現場が誤解しにくくなります。

就業規則とは別に、社内方針、対応マニュアル、掲示物などで周知する方法もあります。顧客向けに基本方針をウェブサイトや店頭へ掲示することも検討できます。

2.自社で起こり得る場面を洗い出す

過去の苦情記録、ヒヤリハット、休職・退職理由、従業員への聞き取りなどから、想定場面を整理します。

  • 暴言、侮辱、人格否定
  • 暴行、物を投げる行為、設備の破損
  • 長時間の居座りや電話による拘束
  • 同じ要求や連絡の執拗な繰り返し
  • 従業員の氏名、写真、個人情報の無断公開
  • 契約やサービスの範囲を著しく超える要求
  • 顧客宅や訪問先で一人になる場面

苦情の内容だけでなく、手段や態様が相当かという視点も必要です。

3.現場の初期対応を具体化する

「毅然と対応する」という表現だけでは、担当者ごとに判断が分かれます。次の事項を、自社の業務に合わせて具体化します。

  • どの時点で上司へ交代するか
  • 一人で対応させない場面
  • 店舗・電話・オンラインごとの終了基準
  • 録音・録画を行う場合の手順と個人情報の取扱い
  • 退店要請、電話の終了、訪問中止の判断者
  • 警察、警備会社、本部、弁護士等への連絡基準
  • 夜間や責任者不在時の連絡先

厚生労働省の解説では、十分な説明後も同じ要求が続く場合の対応について、「長時間」といった曖昧な表現ではなく、業務の実態に応じて時間の目安などを具体化する考え方が示されています。すべての案件を機械的に同じ時間で終了するという意味ではなく、現場が次の行動を判断できる基準を持つことが目的です。

4.相談窓口と報告経路を定める

相談窓口の担当者、連絡方法、受付時間、緊急時の連絡先を労働者へ周知します。カスハラに該当するか明確でない段階でも相談できる窓口にすることが重要です。

相談担当者には、聞き取りの留意点、秘密保持、記録様式、関係部門への引継ぎ方法を示します。社内だけで対応が難しい場合は、外部相談窓口への委託も選択肢です。

5.発生後の対応を決める

相談があった場合は、事実関係を迅速かつ正確に確認します。そのうえで、状況に応じて次の対応を検討します。

  • 上司等が対応を引き継ぐ
  • 被害を受けた労働者と行為者を引き離す
  • 担当者の変更や複数人での対応に切り替える
  • 暴行、傷害、脅迫などが疑われる場合は警察へ通報する
  • 法的対応が必要な場合は弁護士等へ相談する
  • 心身の不調がある場合は産業保健スタッフや医療機関等への相談を案内する
  • 経緯を記録し、原因や背景を検討して再発防止へつなげる

相談者等のプライバシーを保護し、相談や事実確認への協力を理由とする不利益な取扱いを行わないことも明確にします。

6.採用活動のルールを見直す

求職者等セクハラ対策では、採用担当者、面接官、リクルーター、OB・OG訪問を担当する社員などへ方針を周知します。応募者が相談できる窓口を設け、相談後の事実確認と対応手順も決めておきます。

応募者との連絡は会社が指定した手段を基本とし、業務上必要のない私的な連絡や、二人きりになりやすい場所での面談を避けるなど、採用活動の実態に合わせた予防策を検討してください。

7.短時間でも研修と訓練を行う

方針やマニュアルを配布するだけでなく、管理職、窓口担当者、顧客対応者、採用担当者が実際に動けるか確認します。

「上司へ交代する」「電話を終了する」「緊急連絡する」といった場面を想定したロールプレイは、判断のばらつきを減らすのに役立ちます。改正内容と対応手順は、新入社員教育や管理職研修にも組み込みましょう。

相談案内

小林産業医労働衛生コンサルタント事務所では、事業場の規模や業種に応じて、カスハラ対応方針、相談・報告フロー、記録様式、被害を受けた労働者への産業保健上の支援体制づくりをご相談いただけます。

法令の解釈、個別事案におけるカスハラ該当性、懲戒、顧客との法的紛争などについては、都道府県労働局や弁護士等への確認が必要になる場合があります。暴行や脅迫など、安全に関わる緊急事態では、社内手続を待たず警察等へ連絡してください。

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